第66章 蟻を踏み潰すのに、理由がいるか?

井上颯人の顔は、鍋底のようにどす黒く澱んでいた。

その瞳には怒りの炎が渦巻き、唇は一直線に引き結ばれている。絞り出すような声が漏れた。

「祐衣、それは本当なのか?」

福田祐衣は無表情だった。

彼女は視線を落としてバッグを開き、指先で中を探った。数枚のカードの中から、かつて井上颯人が彼女に渡したゴールドカードをようやく見つけ出す。

「これはあなたが私に渡したカードよ。持ち主に返すわ」

「あなたのカードを使ったのは不測の事態だったの。使った分のお金は振り込んでおくわ。これで私たちは貸し借りなしよ」

そう言っても、井上颯人はカードを受け取ろうとしない。福田祐衣は指先を開いた。ゴールド...

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